キリムの店*キリムアートアトリエ
【Kilim Art Atelier】 キリムと絨毯販売
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fc209 シャルキョイ・キリム

産地 シャルキョイ SARKOY KILIM
年代 1906年頃
大きさ 147〜151*200cm
価格 150,000円


1906年の3月、今から117年前に制作されたシャルキョイ。
かつて、ピロットの街で盛んに生産されていたモデルです。
これら花柄キリムの多くは、生産者の家庭等、自分達で使う為に制作されたという点で、それまでのシャルキョイと性格を異にします。
地元の人にとってはとても馴染み深いシャルキョイである一方、他国の人には知名度が高くありません。

その製法は、横向きの構図のキリムを垂直機に立て、下から織り進めるので、頭の中で完成図を想像しながら織り進める事は極めて難しかったでしょう。
精巧な下図があるから出来たのでしょうが、シャルキョイ独特の曲線つづれ織りを使いながら、花柄の所はスリットを小さく繰り替える事で複雑な花模様を表現しており、それこそ職人技の極みのような仕事です。
因みに、織り進めるにつれてどうしても幅広になっていきますから、左端の幅の狭い方が織り始めでしょう。

壁飾りのキリムなので、ある程度離れて見るように出来ています。
そのため、余り近くで見ると何の模様なのか分からなくなります。
それが、ある一定の距離に来ると、見事にツボにはまるから不思議。

ここで、より理解を深める為に、少し時代背景を見ていきましょう。
バルカン半島の国々は、ロシア帝国の支援によりオスマン帝国との戦争で勝利して独立、セルビア王国が生まれます。
この時代、国力を付ける為にもキリムの生産が推奨され、廃れかけた伝統を再び復興して盛んに生産されるようになりました。
この王国の国章のキリムをご覧になった方もあるでしょう。
そのキリムの生産を担っていたのがセルビア王国の東の端て、ピロットを中心にした地域です。
初代セルビア王国の14世紀からその名で呼ばれていますが、キリムの産地としてはブランド名の「シャルキョイ」が好んで用いられます。

その後、セルビア王国ではクーデターが起き、王位が略奪されます。
そして、ロシアとの友好関係を重視する方向に舵を切りると、独立を承認していたオーストリア=ハンガリー帝国と折り合いが悪くなって、関税戦争が起きたのがこの年、1906年です。
ここからサラエボ事件、そして第一次世界大戦に突入します。

こうした背景の下、このキリムが織られた当時は、旧宗主国のオスマン帝国向けの需要は低迷し、国内外の需要に応える為に制作されていました。
シワスモデルとも呼ばれるピロットのオリジナルキリムが盛んに生産されましたが、アナトリアとは違い自家消費の為に織られるものは僅かであり、商用目的でのキリム需要が減退すると、シャルキョイのキリムはちょうどアンティークの終わりと共に終焉を迎える事になります。

一般的に、壁掛け用のキリムは、子供の誕生を祝うものであり、そのキリムは子供部屋に飾られていました。
背面が赤いものは女の子用、こちらは紺色なので、もしかすると、「女性の部屋」の壁掛けかもしれません。
ピロットのキリム博物館に行くと、当時の間取りが再現されていて、裕福な家庭では、家族一人ずつの部屋の他、男性の部屋、女性の部屋というものがありました。
きっと大人数の家族だったのでしょう。
このキリムのメインの花柄の左右に個人名ではなく、家紋のようなものがある事から、何かしらこの家族の記念日かもしれません。

セルビア王国が独立して28年が経過したものの、まだ戦争が続いている時です。
経済的な余裕が無ければ、このような壁飾りのキリムは制作できないでしょう。
また、壁飾りのキリムは、割と奥まった部屋に使われますから、太陽光による退色が殆ど起きていないので、織り込まれた年代が無ければ、それほど古い物だとは分かりません。

染料は何をどのように染めたのか定かでありません。
ピンクや淡い緑は、もっと古い年代のキリムに同じ色合いがあり、それと同じものが使われているのでしょう。
キリムが艶やかな事もあって、写真でその色合いの再現はかなり難しく、焦点を合わせる部位毎に明暗だけでなく色調までもが調整されてしまいます。
例えば、殆どの画像で、背面色の紺色は黒く見えます。
しかし、家紋のようなものを含む画像では深い紺色である事が見て取れます。
肉眼で見ると、これらが全て同時に識別できるので、それは美しいキリムだと感じます。

保存状態については、基本的に、破損部は殆どそのままに放置しています。
上端に二つの穴が開いており、壁に飾る際に何かしらの細工をした跡だと思います。

中央付近の花柄模様周辺にはスリットを塞ぐ処理を施しました。
このスリット技法は、初めから、細い緯糸で隙間の端を梯子掛けしているだけなので、とても壊れやすい構造です。
そのままでも良さそうでしたが、キリムを持ち上げるとスリットが開いた状態になります。
飾りにする場合でも、開いたままのスリットでは具合が悪く、そこから損傷が広がる事も考えられます。

スリットを補強するのは簡単な仕事ように思えます。
が、いざ始めようとすると、同じ色糸、この細い修理糸がありません。
薄いピンク色は殆ど白に近く、僅かに朱色を入れてあるだけです。
その為、スリットを塞ぐ作業に入る前に、細い白糸を選び出し、赤い染料を少し加えて染める事を数回行い、やっと近い色糸を作り出す事が出来ました。
その他に、破損部が簡単に壊れないよう、最低限の措置をしています。
結果的に、このキリムの上を歩いても簡単には壊れない程度まで強度を高めましたので、飾りにするには十分過ぎる強度があります。
染色の様子



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